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エアコンの黒い粉やカスを自分で掃除する方法と予防策を完全解説

2025年10月11日

本格的な夏や冬を前に、久しぶりにエアコンのスイッチを入れたら、吹き出し口から黒い粉やカスがポロポロと落ちてきて驚いた経験はありませんか?

この黒い粉の正体は、実はエアコン内部で繁殖したカビやホコリの塊です。

見て見ぬふりをして使い続けると、健康被害や電気代の増加、さらにはエアコン本体の故障に繋がる可能性があり、決して軽視できません。この記事では、エアコンから出る黒い粉の正体と危険性、そして自分でできる掃除方法について、専門家の視点から徹底的に解説します。

そもそもエアコンは掃除するべきなのか、賃貸物件の場合はどう対処すれば良いのかといった基本的な疑問から、掃除機を効果的に使った掃除のコツ、自分でエアコン内部を掃除する際の具体的な手順と注意点まで、網羅的にご紹介。

さらに、市販の洗浄スプレーの知られざるリスク、カビの再発を防ぐための根本的な対策や予防策、そして最終手段としてのエアコン買い替えの適切なタイミングにも深く踏み込んでいきます。この記事を読めば、エアコンの黒い粉に関する全ての悩みが解決するはずです。

ぜひ最後までご覧ください。

この記事のポイント

  • エアコンから出る黒い粉の正体と人体への危険性がわかる
  • 自分で安全にできるエアコン掃除の範囲とプロに任せるべき範囲がわかる
  • 写真付きで分かりやすい、具体的な掃除の手順とコツがわかる
  • 黒い粉の根本原因であるカビを再発させないための予防策がわかる

エアコンの黒い粉やカスを自分で掃除する前の基礎知識

  • エアコンから黒いカスが出る正体とは?
  • 黒い粉を放置するリスクと危険性を解説
  • そもそもエアコンは掃除するべきなのか
  • エアコンの黒い粉は自分で掃除できるのか?
  • 賃貸物件で黒い粉が出た場合の対処法

エアコンから黒いカスが出る正体とは?

エアコンから黒いカスが出る正体とは?

エアコンの吹き出し口からパラパラと落ちてくる黒いカスの正体は、一つだけではありません。

そのほとんどは「黒カビ」と「ホコリ」が結びついたものですが、場合によっては害虫の痕跡である可能性も考えられます。

主な原因:黒カビとホコリの混合物

エアコン内部は、カビが繁殖するための「温度」「湿度」「栄養」という3つの条件が完璧に揃いやすい場所です。

  • 湿度:冷房や除湿運転を行うと、内部の熱交換器が急激に冷やされ、空気中の水分が結露して付着します。これにより、内部は常に高い湿度に保たれます。
  • 温度:カビは20℃~30℃の温度で最も活発に繁殖しますが、これはまさにエアコンが最もよく使われる季節の室温と一致します。
  • 栄養:フィルターをすり抜けた微細なホコリ、髪の毛、キッチンの油煙、人の皮脂などがカビの絶好の栄養源となります。

これらの条件が揃った結果、内部の送風ファンや熱交換器で増殖した黒カビがホコリと絡み合い、乾燥して剥がれ落ち、エアコンの風に乗って黒い粉として排出されるのです。

まれな原因:ゴキブリなどの害虫のフン

黒い粉が比較的大きく、硬い粒状である場合は、残念ながら「ゴキブリのフン」である可能性が疑われます。

エアコン内部は暗くて暖かく、湿気もあるため、ゴキブリにとって非常に住みやすい環境です。特に、室外と繋がっているドレンホース(排水ホース)は、ゴキブリの主要な侵入経路の一つとなっています。

ゴキブリのフンが疑われる場合の絶対的な注意点

もしゴキブリのフンや死骸を発見しても、慌ててエアコン内部に殺虫剤を噴射するのは絶対にやめてください。

殺虫剤の油性成分が内部の精密部品に付着し、ホコリをさらに固着させたり、故障の原因になったりします。また、運転時に有害な化学物質が風に乗って室内に拡散し、健康被害を引き起こす恐れも否定できません。

不安な場合は、害虫駆除の専門業者か、事情を説明した上でエアコンクリーニング業者に相談するのが最も安全で確実な方法です。

黒い粉を放置するリスクと危険性を解説

「たかが黒い粉」と放置してしまうと、目に見えないところで深刻な問題が進行している可能性があります。そのリスクは、「健康」「家計」「機械」の3つの側面に大別されます。

【健康リスク】アレルギーや呼吸器系疾患の原因に

黒い粉の主成分である黒カビは、その胞子を空気中に飛散させます。私たちがエアコンの風と共にこの胞子を吸い込むと、アレルギー反応を引き起こすアレルゲンとなり得ます。

特に免疫力が未発達な小さなお子様や、免疫力が低下しているご高齢の方、元々アレルギー体質の方は影響を受けやすく注意が必要です。

文部科学省が公開している「カビ対策マニュアル」でも指摘されている通り、カビは様々な健康被害の原因となり得ます。

カビの胞子が引き起こす可能性のある主な健康被害

  • アレルギー性鼻炎:くしゃみ、鼻水、鼻づまりが止まらなくなる。
  • 咳喘息:風邪でもないのに、乾いた咳が何週間も続く。
  • 夏型過敏性肺炎:夏場にエアコンを使い始めると咳や発熱といった症状が現れる。
  • アトピー性皮膚炎の悪化:カビの胞子が皮膚に付着し、症状を悪化させる。

【家計リスク】無駄な電気代の増加

エアコンのフィルターや内部の熱交換器にホコリやカビがびっしりと付着すると、空気の通り道が塞がれてしまいます。

これは、人間で言えばマスクを何重にもつけて全力疾走するようなもので、エアコンは部屋を快適な温度にするため、本来必要以上の力(電力)を使わなければならなくなります。

環境省の調査によれば、エアコンのフィルターを2週間に一度清掃するだけで、冷房時で約4%、暖房時で約6%の消費電力を削減できるとされています。(出典:環境省「家庭でできる節電アクション」)裏を返せば、掃除を怠るだけでそれだけ無駄な電気代を支払い続けていることになるのです。

【機械リスク】水漏れや故障の直接的な原因

汚れの放置は、エアコン本体の寿命を縮める直接的な原因となります。結露水の受け皿である「ドレンパン」や、水を外部に排出する「ドレンホース」にカビやホコリが詰まると、行き場を失った水が室内機から溢れ出し、「水漏れ」を引き起こします。

壁や床、下の家具が水浸しになる二次被害に繋がることも少なくありません。また、送風ファンにホコリが不均一に付着すると、回転のバランスが崩れて「異音」や「振動」が発生し、最悪の場合はモーターの故障に繋がります。

そもそもエアコンは掃除するべきなのか

そもそもエアコンは掃除するべきなのか

これまでの説明でお分かりの通り、結論は明白です。

エアコンの定期的な掃除は、快適かつ安全に暮らす上で「絶対に必要」です。掃除は単に機器を綺麗にするだけでなく、家族の健康を守り、無駄な出費を抑え、エアコンという高価な家電製品を長く使い続けるための重要な投資と言えるでしょう。

実際に、ダイキンやパナソニック、三菱電機といった主要なエアコンメーカーは、例外なく公式サイトや取扱説明書で2週間から1ヶ月に1回程度のフィルター掃除を強く推奨しています。これは、製品の性能を最大限に発揮させ、安全に使用するためのメーカーからの正式な要請なのです。

「うちのは高価なお掃除機能付きエアコンだから大丈夫」と思っていませんか?実は、多くの「お掃除機能」は、フィルターの表面に付着したホコリをブラシでかき取り、ダストボックスに溜める機能に限定されています。

内部の熱交換器やファンのカビを洗浄してくれるわけではありません。そのため、ダストボックスに溜まったホコリは定期的に捨てる必要がありますし、内部の汚れに対しては、お掃除機能が付いていないエアコンと同様のケアが別途必要になるのです。

エアコンの黒い粉は自分で掃除できるのか?

「掃除が必要なのは分かったけど、どこまで自分でやっていいの?」という疑問が当然浮かびます。

エアコンの掃除は、「自分で安全にできる範囲」と、「専門知識と専用機材が必要なためプロに任せるべき範囲」に明確に分かれています。この境界線を誤ると、エアコンを綺麗にするどころか、故障させてしまうリスクがあるため、正確に理解しておくことが非常に重要です。

自分でできる掃除とプロのクリーニングの比較
項目 自分でできる掃除 プロのエアコンクリーニング
掃除範囲 ・フィルター
・本体カバー(外装)
・吹き出し口、風向きルーバー
・上記すべて
内部の送風ファン
熱交換器(フィン)
・ドレンパン
・ドレンホース
推奨頻度 2週間~1ヶ月に1回 1~2年に1回(使用状況による)
目的 日常的なホコリの除去とカビの予防 内部に蓄積したカビや汚れの根本的な分解洗浄
費用目安 0円~数百円(道具代) 8,000円~20,000円程度
作業時間 20分~40分程度 60分~120分程度
効果 ◎:ホコリ除去、電気代節約
△:内部のカビ除去、臭いの改善
◎:ホコリ除去、電気代節約
◎:内部のカビ除去、臭いの改善

この表が示すように、自分でできるのはあくまで表面的な、手の届く範囲のホコリ取りが中心です。

黒い粉がすでに出てきている状態は、内部の送風ファンや熱交換器にカビが根を張っている証拠です。そのため、黒い粉問題を根本的に解決するには、プロによる分解高圧洗浄が最も確実で効果的な方法と言えます。

賃貸物件で黒い粉が出た場合の対処法

もしお住まいが賃貸物件で、備え付けのエアコンから黒い粉が出てきた場合は、掃除に取り掛かる前に一呼吸おいてください。

焦って自分で掃除したり、勝手に業者を手配したりするのはトラブルの元です。正しい手順は、まず大家さんや物件の管理会社に連絡して指示を仰ぐことです。

なぜなら、エアコンは部屋の「設備」であり、その所有権と修繕義務は原則として大家さんにあるからです。民法上、賃借人(入居者)には「善良なる管理者の注意をもって」その部屋を使用・保管する義務(善管注意義務)がありますが、これには日常的な清掃(フィルター掃除など)は含まれるものの、専門的な分解洗浄までは通常求められません。

管理会社への連絡ポイントと会話例

連絡する際は、感情的に「汚いから何とかしてくれ」と伝えるのではなく、状況を客観的に、かつ具体的に伝えることがスムーズな解決に繋がります。

【伝えるべきポイント】

  • いつから黒い粉が出始めたか(例:昨日、今年の夏初めてつけたら)
  • どのような状態で出てくるか(例:運転開始時に集中して出る、常にパラパラ落ちてくる)
  • 黒い粉以外の異常(例:カビ臭い、酸っぱい臭いがする、異音がするなど)

【会話例】
「お世話になっております。〇〇号室の〇〇です。お部屋のエアコンの件でご連絡いたしました。昨日、冷房をつけたところ、吹き出し口から黒い粉のようなものがたくさん出てきました。少しカビ臭い匂いもするようです。一度ご確認いただくことは可能でしょうか?」

特に、入居後すぐ(1ヶ月以内など)に問題が発覚した場合は、前の入居者の使用状況や退去後のクリーニング不足が原因である可能性が極めて高く、大家さん側の費用負担で専門業者のクリーニングを手配してくれることがほとんどです。

逆に、何年も住み続けてからの発覚で、一度もフィルター掃除をしたことがない、といった場合は入居者のメンテナンス不足を指摘される可能性もゼロではありません。いずれにせよ、まずは相談することが第一歩です。

エアコンの黒い粉を自分で掃除する方法を実践!

  • エアコンの黒い粉を自分で掃除するやり方と手順
  • 掃除機を使った黒い粉の掃除ポイント
  • 自分でエアコン内部を掃除する際の注意点
  • 市販の黒い粉対策スプレーは使っていい?
  • 黒い粉を再発させない対策や予防策
  • エアコンの買い替えを検討する3つのタイミング

エアコンの黒い粉を自分で掃除するやり方と手順

エアコンの黒い粉を自分で掃除するやり方と手順

ここでは、自分で安全に行える範囲に絞って、エアコン掃除の具体的な手順を詳しく解説します。

全体の作業時間は慣れれば30分程度です。週末の時間がある時に、ぜひ挑戦してみてください。

掃除を始める前に準備するものリスト

  • 掃除機(ブラシノズルがあれば最適)
  • ハンディモップや乾いたぞうきん
  • タオル2~3枚(吸水性の良いもの)
  • 柔らかいブラシ(使い古しの歯ブラシで十分)
  • 中性洗剤(食器用洗剤を数滴)
  • バケツとぬるま湯
  • 安定した踏み台
  • (あれば)マスクとゴム手袋

ステップ1:安全確保と周辺の準備

何よりもまず、安全の確保から始めます。作業中の誤作動による怪我や感電事故を防ぐため、エアコン本体に繋がっている電源プラグを必ずコンセントから抜いてください。ブレーカーを落とすのが最も確実ですが、プラグを抜くだけでも問題ありません。次に、エアコンの下にホコリが落ちても良いように、新聞紙やビニールシートを敷いておくと後片付けが楽になります。家具などがある場合は移動させておきましょう。

ステップ2:フィルターの丁寧な掃除

エアコン掃除の主役は、なんと言ってもフィルターです。ここを清潔に保つことが、内部の汚れを最小限に抑える最大のポイントとなります。

  1. フロントパネルを開ける:エアコン本体の側面下部や前面下部にある窪みに指をかけ、カチッと音がするまでゆっくりと持ち上げます。多くの機種は一定の角度で固定されるようになっています。
  2. フィルターを外す前に軽く掃除機をかける:フィルターにホコリがびっしり付いている場合は、この段階で掃除機のブラシノズルを使い、表面の大きなホコリを優しく吸い取ります。こうすることで、フィルターを取り外す際にホコリが室内に舞い散るのを防げます。
  3. フィルターを慎重に取り外す:フィルターはプラスチックの爪で固定されていることがほとんどです。つまみを軽く押したり、少し持ち上げたりしながら、ゆっくりと手前に引き抜きましょう。
  4. 改めて掃除機でホコリを吸い取る:取り外したフィルターを新聞紙の上に置き、表面(ホコリが付いている側)から再度、丁寧に掃除機をかけます。
  5. シャワーで水洗いする:浴室やベランダで、フィルターの裏面からシャワーの水を当てます。表面から当てるとホコリが網目に詰まってしまうので、必ず裏面から水圧でホコリを押し出すイメージで洗い流してください。
  6. しつこい汚れは中性洗剤で:油汚れやタバコのヤニでベタついている場合は、ぬるま湯に食器用洗剤を数滴溶かし、柔らかいブラシで優しくこすり洗いします。強くこするとフィルターを傷めるので注意しましょう。
  7. 陰干しで完全に乾燥させる:洗い終わったら、タオルで優しく挟むようにして水気をしっかり取ります。その後、風通しの良い日陰で立てかけるようにして、完全に乾かします。生乾きのまま戻すと、新たなカビの原因になるため、最低でも半日~1日は乾燥させましょう。直射日光はプラスチックを劣化させるので避けてください。

ステップ3:吹き出し口と本体外装の拭き掃除

フィルターを乾かしている間に、エアコン本体側の掃除を進めます。固く絞ったぞうきんで、まずはフロントパネルの裏表やエアコン本体の天面・側面といった外装部分を拭き上げます。

次に、黒い粉が直接出てくる吹き出し口と、風向きを調整するルーバー(羽根)を掃除します。

ルーバーは手で優しく動かすと角度を変えられます。細かい部分は、割り箸にウェットティッシュや固く絞った布を巻き付け、輪ゴムで固定した「お掃除棒」を作ると、隙間の奥まで届きやすく便利です。汚れがひどい場合は、お掃除棒の先に少量の中性洗剤をつけて拭き、その後、水拭きと乾拭きで仕上げます。

吹き出し口から内部を覗き込むと、円筒状の送風ファンが見えます。ここに黒いカビがびっしり付いていることが多いですが、ここは「プロの領域」です。

無理にブラシを突っ込んだりすると、ファンが破損したり、ホコリを奥に押し込んでしまったりする危険性があります。自分でできるのは、あくまで吹き出し口の手前までと心得ましょう。

掃除機を使った黒い粉の掃除ポイント

掃除機を使った黒い粉の掃除ポイント

フィルター掃除における掃除機の使い方は、シンプルながら非常に重要です。先ほども触れましたが、最も大切なポイントは「必ずフィルターの表面(空気が部屋から入っていく側)から吸う」という点です。

これは、フィルターの構造を理解すると納得できます。フィルターは、部屋の空気を取り込む際にホコリをキャッチするための「網」です。

そのため、ホコリは必ず部屋に面した側に溜まります。ここで裏側から掃除機を当ててしまうと、網の目にホコリを無理やり押し込むことになり、掃除しているつもりが、かえって頑固な目詰まりを作り出してしまうのです。

掃除機をかける際は、ブラシ付きのノズルを使い、フィルターの網目を傷つけないよう、なでるように優しく動かすのがコツです。

自分でエアコン内部を掃除する際の注意点

「自己責任で、もう少しだけ内部をきれいにしたい」と考える方もいるかもしれません。

しかし、その一歩先には、高額な修理費用に繋がりかねない多くのリスクが潜んでいます。もし挑戦する場合は、以下の危険性を十分に理解した上で、細心の注意を払ってください。

内部清掃に潜む3大リスク

①電装部品のショート:エアコンの心臓部である電子基板は、本体の右側に集中していることがほとんどです。この部分が少しでも水に濡れると、基板がショートしてエアコンは動かなくなります。修理・交換には数万円の費用がかかることも珍しくありません。

 

②熱交換器(フィン)の変形:フィルターの奥にある、薄いアルミの板が何枚も並んだ部分が熱交換器です。このフィンは非常に柔らかく、指で軽く触れただけでも簡単に曲がってしまいます。フィンが変形すると空気の流れが阻害され、性能低下や水漏れの原因となります。

 

③部品の破損と組み立て不能:見えているネジを外しただけでは、エアコンのカバーは簡単には外れません。隠された爪や特殊な構造で固定されており、無理に力を加えるとプラスチック部品が割れてしまいます。また、分解できたとしても、元通りに組み立てられなくなるケースも多発します。

これらのリスクを避けるため、内部の掃除は「見える範囲のホコリを、乾いたブラシで優しくかき出す程度」に留めるのが賢明です。決して、水をかけたり、洗剤をスプレーしたりするべきではありません。

市販の黒い粉対策スプレーは使っていい?

市販の黒い粉対策スプレーは使っていい?

ホームセンターやドラッグストアの掃除用品コーナーには、エアコンの熱交換器(フィン)に直接噴射して洗浄するタイプのクリーナースプレーが数多く並んでいます。

手軽で安価なため魅力的に見えますが、三菱電機や富士通ゼネラルをはじめ、ほとんどのエアコンメーカーは公式にその使用を推奨していません。むしろ、「使用しないでください」と注意喚起しているメーカーがほとんどです。

その最大の理由は、プロの洗浄とは異なり「すすぎ」の工程が絶対的に不足するためです。

スプレーによってフィンから浮き上がった汚れやカビは、結露水と一緒にドレンホースから排出される仕組みですが、その水量はごくわずか。結果として、大半の洗剤成分と溶けた汚れが内部に残留してしまいます。これが乾燥して固着したり、新たなカビのエサになったり、悪臭の原因になったりと、状況をさらに悪化させるケースが後を絶ちません。

洗浄スプレーによる火災事故に注意

独立行政法人 製品評価技術基盤機構(NITE)は、エアコンの洗浄スプレーが原因となった火災事故について繰り返し注意喚起を行っています。

スプレーの洗浄液がファンモーターなどの電装部品に付着し、そこにホコリが溜まることでトラッキング現象が発生し、発火に至るというものです。実際に、不適切な使用による火災は毎年報告されています。(参照:製品評価技術基盤機構(NITE)「エアコンの火災や発煙事故」
安易な使用が、取り返しのつかない事態を招く可能性があることを、強く認識しておく必要があります。

黒い粉を再発させない対策や予防策

エアコンを一度きれいにしても、使い方や住環境が変わらなければ、カビはまた必ず発生します。

黒い粉の悩みから解放されるためには、日々の「予防」が何よりも重要です。カビの発生条件である「湿度」と「栄養(ホコリ)」をエアコン内部に与えないための、4つの簡単な習慣をご紹介します。

【最重要】運転停止後は「内部クリーン」か「送風」で乾燥

冷房や除湿運転を止めると、エアコン内部は結露でびしょ濡れの状態です。この湿気を放置することが、カビ最大の原因となります。

これを防ぐため、冷房を使った後は必ず1~2時間ほど「送風運転」を行い、内部をしっかりと乾燥させる習慣をつけましょう。最近のエアコンには、停止後に自動で送風や弱い暖房運転を行う「内部クリーン機能」が搭載されているものが多いので、この機能は常にONにしておくことを強く推奨します。

定期的なフィルター掃除で「エサ」を断つ

カビの栄養源となるホコリの侵入を物理的に防ぐため、2週間に1回のフィルター掃除は欠かさず行いましょう。掃除機で吸うだけの簡単な掃除でも、やるとやらないとでは大違いです。

1日数回の部屋の換気

部屋の空気が滞っていると、湿気やホコリが室内にこもり、エアコンがそれらを吸い込みやすくなります。1時間に5~10分程度、2ヶ所の窓を開けて空気の通り道を作ることで、室内の空気をリフレッシュさせましょう。

調理中や入浴後など、特に湿度が上がりやすいタイミングでの換気は効果的です。24時間換気システムがある場合は、常に作動させておきましょう。

ドレンホースからの害虫侵入をブロック

室外機の近くにあるドレンホースの先端は、外に開いているため害虫の侵入経路になりがちです。

ホームセンターや100円ショップで販売されている「防虫キャップ」を取り付けるだけで、ゴキブリやその他の虫が内部に侵入して巣を作るのを防ぐことができます。数百円の投資で大きな安心感が得られる、コストパフォーマンスの高い対策です。

エアコンの買い替えを検討する3つのタイミング

掃除や専門業者によるクリーニングを試しても、黒い粉やカビ臭さがすぐに再発する、あるいはエアコンの効きが悪いといった場合は、本体の寿命が近づいているサインかもしれません。

修理を繰り返すよりも、思い切って買い替えた方が長期的には経済的かつ快適になるケースも多いです。買い替えを具体的に検討すべき3つのタイミングを解説します。

製造年から10年以上経過している

多くの家電製品には「設計上の標準使用期間」が定められており、家庭用エアコンの場合は一般的に10年とされています。

この期間は、安全上支障なく使用できる標準的な期間の目安であり、これを超えると経年劣化による性能低下や故障のリスクが急激に高まります。

本体に貼られているシールで製造年を確認し、10年を超えていたら買い替えの有力候補です。

10年前の機種との省エネ性能の差は歴然!

エアコンの技術は日進月歩で、特に省エネ性能はここ10年で劇的に向上しています。

例えば、10年前のモデルと最新の省エネモデルを比較すると、期間消費電力量に大きな差があり、年間の電気代が数千円から1万円以上安くなることも珍しくありません。

本体価格は高くても、数年間の電気代の差額で元が取れてしまう計算になる場合も多いのです。

メーカーに修理用の部品がない

家電製品の修理用部品は、その製品の製造が終了してから一定期間、メーカーが保管する義務があります。

これを「補修用性能部品の保有期間」といい、エアコンの場合は9年~10年が一般的です。この期間を過ぎると、たとえ簡単な故障であっても部品がないために修理不能となります。

メーカーのサポートに連絡し、「部品の保有期間が過ぎているため修理できません」と言われたら、それは明確な買い替えのサインです。

プロのクリーニングをしてもすぐに症状が再発する

専門業者に高圧洗浄をしてもらって一時的に綺麗になっても、1年と経たずにまた黒い粉やカビ臭さが出てくる…。

これは、内部のプラスチック部品や熱交換器のコーティングが経年劣化で剥がれ、カビが非常に付着・繁殖しやすい状態になっている可能性があります。こうなると、クリーニングの効果も長持ちせず、イタチごっことなってしまいます。クリーニングという対症療法ではなく、買い替えという根本治療が必要な段階です。

まとめ:エアコンの黒い粉は自分で掃除が可能

エアコンから吹き出す黒い粉は、内部が汚れているという危険信号です。放置はせず、しかし慌てて間違った対処もしないよう、この記事で解説した知識を元に、冷静に、かつ適切に行動することが大切です。最後に、この記事の重要なポイントをまとめました。

  • エアコンから出る黒い粉の正体は主に黒カビとホコリ
  • まれにゴキブリのフンである可能性もあるため粒状か確認する
  • 放置するとアレルギーなどの健康被害や電気代増加、故障のリスクがある
  • 賃貸物件の場合はまず大家さんや管理会社に連絡するのが鉄則
  • 自分で安全に掃除できるのはフィルターや本体カバーなど表面的な部分
  • 内部の送風ファンや熱交換器の本格的な洗浄はプロの領域と心得る
  • 掃除を始める前は感電防止のため必ず電源プラグを抜く
  • フィルター掃除では掃除機を表面から、シャワーを裏面から当てるのがコツ
  • 市販の洗浄スプレーは汚れや洗剤が内部に残り、火災リスクもあるため使用は避ける
  • 無理な分解や電装部品の水濡れは高額な修理に繋がるため絶対に避ける
  • 再発防止には使用後の「送風」や「内部クリーン」運転による乾燥が最も効果的
  • 2週間に1回のフィルター掃除と定期的な部屋の換気を習慣にする
  • 製造から10年以上経過している場合は省エネの観点からも買い替えがおすすめ
  • プロのクリーニングでも改善しない場合はエアコン本体の寿命のサイン
  • 根本的な解決と安心のためには1~2年に1回の専門業者による分解洗浄を検討する
  • この記事を書いた人

鈴木 優樹

13年間で累計1万台以上のエアコン設置に携わってきた空調工事の専門家です。数多くの現場を経験する中で、快適な住まいにはエアコンだけでなく「窓の断熱性」が欠かせないと実感しました。地元・千葉で培った知識と経験を活かし、快適な暮らしに役立つ断熱の本質をわかりやすく発信しています。

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